昨年秋に当協会講演会で袖井孝子氏から素晴らしいお話をお聴きし、多々あるご著書の中から「危機的移行」について考えました。
人は生涯において、大きな変化によって新しい環境に適応しなくてはならない時が幾度かあります。例えば結婚や失業、退職、死別などです。そのような新しい環境に移行する過程が「危機的移行」と呼ばれ、うまくゆかないと絶望に陥ってしまいます。
少子高齢化社会の今、配偶者との死別、独居による周囲との関係性喪失や病気によって生活の変化を余儀なくされる方もおられます。そんな時人は個人的な努力だけでは解決がつかず、近親者や友人による私的、公的支援が必要となります。そこで私は、近親者や社会との関係性喪失の状態から脱して新たな関係を構築できるよう援助すること、すなわち「危機的移行」の支援も音楽療(法の一つの役割と考えています。
音楽療法では音楽を聴くだけでなく身体活動、発声、歌唱、楽器演奏や頭の体操などもします。音楽には言葉を越えたコミュニケ―ションの力があり、音楽にさそわれて、思い出された事が自然に語られます。時には悲しみや辛さを分かち合うなど、普段中々できない心からの触れ合いもあります。共に音楽を楽しむ心豊かな時間となり、落ち着く居場所となったと言う声も多く聞かれます。
当協会でも2011年より地域に根差した集団音楽療法を実践しており、「危機的移行」の支援という新しい音楽療法の役割をこれからも目指し続けます。(音楽療法士 丸山ひろ子
2013年4月)